
■編集部よりお願い
1、文字は楷書で分かり易く、はっきりと書いて下さい。年の花集に、よく判読し兼ねる場合がありますので。
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森のドラマ(32) 花と緑に親しむ
【雪中の吊り橋】 高田宏
吊り橋か苦手だ。山登りの途中、深い谷にかかっている粗製の吊り橋に出くわし、おそれをなして橋の手前で引き返したこともある。或る島の谷川にかかっていた吊り橋は震えながら渡ったけれども、渡る前には谷の崖を下りて渡河し向こうの崖を登ろうかと本気で考えたものだ。四国山中の有名な吊り橋、祖谷灘の蔓橋では、踏んでゆく丸太と丸大の間から見える激流に目が眩み、膝ががくがくして前進も後退もならず冷汗にまみれた。
そのぼくが、どうしても渡らなければならない雪中の吊り橋に出会った。真冬の秋山郷でのことだった。江戸後期の越後塩沢の商人で『北越雪譜』の著者である鈴木牧之が信越国境の秋山郷を訪ねたのは文政十一年晩秋のことで、雪はまだだった°地理に詳しい桶屋の男と同行していた。ぼくのほうは独り旅で、村営バスの終便で降りると雪の白さだけがたよりの闇道だった。こわごわ雪の急坂を下りて行くと向こうに宿のあかりが見えたのだが、そこへ着くには吊り橋を渡らなければならない。
雪除け小屋をくぐって橋に足をかけると、ぐらりときた。氷結した井桁状鉄床の隙間から中津川の流れの白い泡立ちが見えていた。寒中に汗はみ、宿の灯が遠かった。
吊橋の底の底まで雪は降る 椎橋清翠